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百喩経(6) (1/2)

田夫思王女喩


田夫が貴姫を恋するこころを人に打ち明けた。人は「王女になんじの思いを通じたが汝を王女は嫌いと云った」と告げたにも拘らず田夫は強いても王女に自分を認めさせようとした。

「世に美しいものとはこの姫のことか」

 陀堀多は畑の中から輿こしの姫を眺めた。彼は今、黒黍くろきびを刈っていた。

 金銀の瓔珞ようらく、七宝の胸かい、けしの花のような軽い輿。輿を乗せた小さい白象は虹でかがられた毛毬けまりのように輝いて居た。輿は象の歩く度にうつらうつらと揺れた。

 陀堀多は知らず知らずきびの陰に身を隠しながら姫の姿を追った。

 本あぜ道は榕樹ガジュマルの林へ向かっていた。そこまではまだ二三町あった。さいわい黍畑は続いて居た。はるかに瑠璃るり色の空を刻み取って雪山の雪が王城の二つやぐらを門歯にして夕栄えにきらめいて居た。夢のような行列はこれ等の遠景を遊び相手にたゆたいつつ行く。

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鶴は病みき

歌人として有名だった岡本かの子の最初の小説集『鶴は病みき』(1936)の電子復刊です。表題作のほか、「渾沌未分」「敵(戯曲)」「豆腐買い」等、9編の短編を収録。信正社による初刊本を底本とし、伏せ字は実業之日本社版の「岡本かの子全集」を参照して補いました。2010年の常用漢字改定に照らし合わせ現代仮名遣いへ改めるとともに、常用外漢字にはルビを振り、読みやすくしています。昭和の評論家、十返肇による「岡本かの子論」も収録しました。