愛と美について

愛と美について太宰治

竹村書房から1939(昭和14)年5月20日に発行された『愛と美について』です。著者の太宰治は読者に向けて以下の様なまえがきを書いています。「全部、未発表の作品であるから、読者も、その点は、たのしみにして読めるのではないかと思う。こんな物語を書いて、日常の荒涼を彩色しているのであるが、けれども侘びしさというものは、幸福感の一種なのかも知れない。私は、いまは、そんなに不仕合わせではない。みんなが堪えて、私をゆるしてくれている。思うと、それはずいぶん苦になることばかり、多いのであるが。『火の鳥』は、書きかけて、一時ていとんの形である。なかなか、むずかしいのである。これに就いては、もうすこし考えさせてもらいたい。」2010年の常用漢字改定に照らし合わせ現代仮名遣いへ改めるとともに、常用外漢字にはルビを振って読みやすくしました。

  • 発売日
  • 価格100円

この書籍を購入できるストア

Kindleストア楽天Kobo電子書籍ストアYahoo!ブックストアひかりTVブック漫画全巻ドットコムセブンネットショッピングBookLive!iBooks Store紀伊國屋書店コミックシーモアhontodブックBOOK☆WALKER

目次

秋風記

秋風記連載終了

あの、私は、どんな小説を書いたらいいのだろう。私は、物語の洪水の中に住んでいる。役者になれば、よかった。私は、私の寝顔をさえスケッチできる。私が死んでも、私の死に顔を、きれいにお化粧してくれる、かなしいひとだって在るのだ。Kが、それをしてくれるであろう……

新樹の言葉

新樹の言葉連載終了

甲府は盆地である。四辺、皆、山である。小学生のころ、地理ではじめて、盆地という言葉に接して、訓導からさまざまに説明していただいたが、どうしても、その実景を、想像してみることができなかった。甲府へ来て見て、はじめて、なるほどと合点できた……

花燭

花燭連載終了

祝言の夜ふけ、新郎と新婦が将来のことを語り合っていたら、部屋の襖のそとでさらさら音がした。ぎょっとして、それから二人こわごわ這い出し、襖をそっとあけてみると、祝い物の島台に飾られてある伊勢海老が、まだ生きていて、大きな髭をゆるくうごかしていたのである……

愛と美について

兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい……

火の鳥

火の鳥連載終了

昔の話である。須々木乙彦は古着屋へはいって、君のところに黒の無地の羽織はないか、と言った。「セルなら、ございます。」昭和五年の十月二十日、東京の街路樹の葉は、風に散りかけていた……

表記等について

  1. 読みやすさを優先し、原則として旧仮名遣いを新仮名遣いに改めるほか常用漢字表の新字体を使用するが、原文に文語文がある場合はそのかぎりではない。
  2. 常用漢字表にない漢字、当て字、異字は初出時に振り仮名を付ける。
  3. 難読語で原文を損なうおそれが少ないと思われるものについては仮名に改める。
  4. 振り仮名はブラウザによって表示が異なる。ChromeとInternet Explorerでは文字の上に振り仮名が振られる「ルビ表示」となるが、Firefoxでは文字の後に()で表示される。文字を強調する傍点は、FirefoxとInternet Explorerでは太字で表示される。
  5. ITmedia 名作文庫は、散文作品(小説、随筆、評論、日記等)を主体とする。なるべく初刊本に近いものを底本に選び、全集等、先人たちの校訂を参照する。著者の死後50年を過ぎた作品群の中には、21世紀の今日の観点からみると、差別を始めとした不適切な表現ないしは同表現ととられかねない箇所が見受けられることがあるが、原文の歴史的価値を鑑みて底本どおりとする。